第86回 日本胃癌学会総会の概要

第86回 日本胃癌学会総会は、2014年3月20日~22日の三日間にわたり、北里大学医学部消化器内科学主任教授である小泉和三郎氏が会長となり、パシフィコ横浜にて開催されました。

今回は、胃癌の征圧・叡智と実践というテーマのもとで、一般演題発表に加えて、特別講演、教育講演、企画、virtual cancer board、シンポジウム、パネルディスカッション、ワークショップ、英語によるセッション、コンセンサスミーティング、市民公開講座と、非常に充実した多くのスケジュールで構成されていました。

日本では毎年若年者から高年者まで多くの患者が胃癌と診断され、治療を受けています。胃癌診療は近年極めて進歩していますが、未だ、発生率・死亡率ともに高いのが現状です。本会のテーマである胃癌の制圧を実現するためには、医師をはじめ看護師、薬剤師、メディカルスタッフ、製薬メーカー、医療機器メーカー、行政などが一丸となって知識やアイデアを共有する必要があります。

そして、ヘリコバクター・ピロリの除菌といった予防から早期発見、早期治療、化学療法、緩和医療まで、幅広く発展・進歩させることで、患者のQOLを向上させることが必要と考えられます。

特別講演や企画の概要としては、実際の症例をもとに、診断や健診の手法、内視鏡および外科的手術、抗がん剤による化学療法、最新の分子標的薬やレジメンの紹介などについての発表が多く見受けられました。

その中でも、胃癌の種類や病理学的分類、転移部位などに応じた具体的な治療法、実践的なテーマには多くの注目が集まっていました。

また、本会の参加者ですが、医師を中心として、看護師や薬剤師、コメディカルスタッフなどの参加も多く見られ、チーム医療の実践も感じられました。さらに、将来の医療を担う医学部などの学生や、市民講座へ参加する方もいたことから、胃癌という疾患の認識が高まりつつあるということも実感できる会でした。

胃切除に伴う糖尿病リスクの減少

胃癌による胃切除に伴う糖尿病リスクの減少すると言われています。
しかし、これを手放しで喜ぶというのは少し無理があるでしょう。
そもそも糖尿病になること自体が胃癌だけでなく他の癌の発症のリスクを高めるものだからです。

総会のまとめ

第86回 日本胃癌学会総会は、「胃癌の制圧・叡智と実践」をテーマに掲げ、2014年3月20日(木)~22日(土)の3日間開催されました。近年の胃癌診療は極めて進歩したものの、胃癌を完全に征圧するためには予防、発見、治療の早期化を図ると共に、治療面においては、低侵襲治療、化学療法、緩和医療までバランス良くトータルに発展進歩することが重要であるとの課題意識に鑑み、各方面の最新の基礎研究や臨床研究の報告を結集共有し、ディスカッションを重ねて叡智を築き上げることを本学会の目指すところとしました。

総会は、特別講演を3演目、教育講演4演目、ワークショップ16テーマ、パネルディスカッション9テーマ、シンポジウム6テーマなど、質量共に密度の濃いプログラムでしたが、中でも特筆すべきは特別講演の充実具合です。国際医療福祉大学の北島学長を座長、日本胃がん予知・診断・治療研究機構の三木理事長を演者に迎えた特別講演1では、「胃がんリスク検診(ABC検診)の現状と今後の展望」と題して白熱の演説がなされました。

このほかにも、自治医科大学の菅野教授や北海道大学大学院の浅香特任教授による「わが国から胃癌関連死を撲滅するためのロードマップ」、そして一風変わった演目の「ミスターGT-R、胃癌を克服、生きる力を語る」などバラエティに富むアプローチがなされ、胃癌に関わる医療シーンの多面性を実感することとなりました。

また、教育講演では「iPS細胞研究の現状と展望:腫瘍学への応用の可能性」など、胃癌に限定せず腫瘍全般に視野を広げた考察が成されるなど、胃癌診療の裾野の広がりを感じられるテーマが発表されました。

このほか、「そこが知りたい!-胃がんの早期発見・早期治療」と題して市民公開講座を開催し、近年富に話題に上るピロリ菌や治療・手術の実際についてやさしく解説するなど、専門家のみならず広く市民にも門戸を開いた総会として、盛況のうちに幕を閉じました。”

シンポジウム2について

第86回 日本胃癌学会総会は2014年3月20日~22日、横浜パシフィコで開催され、盛会で終えることができました。シンポジウム2では、国立がん研究センター東病院 先進医療開発センター新薬臨床開発分野長の土井 俊彦先生に胃癌に対する分子標的薬の治療についてお話し頂きました。

分子標的薬は、がん細胞と正常な細胞を見分けて、がん細胞だけを狙い撃ちしてその働きを弱め、増殖を阻止するため、副作用も少なく効率よくガンを攻撃することができます。既に乳がんや肺癌で効果を上げていますが、今最も注目を浴びているのが胃癌や大腸がんなどの消化器がんの分野での分子標的治療です。

アバスチンやアービタックス、ハーセプチンが登場し、欧米では転移や再発したGIST(gasutorointestinal storomal tumor=消化管間質腫瘍)や大腸がん、胃癌に対して多くの分子標的薬を用いた臨床試験を行っております。既に標準治療となったものも多く存在致します。

2014年3月現在、わが国で市販されて比較的よく使われている分子標的薬には、トラスツズマブ(ハーセプチン)、リツキシマブ(リツキサン)、イマチニブ(グリベック)、ケフィチニブ(グリベック)があります。

GISTの患者さんにグリベックを1日400mg投与し6ヶ月の分子標的治療を行った結果、腫瘍が完全消失した例はありませんでした。しかし、50%以上縮小した例は46.4%、進行が止まった例は53.6%でした。これらを合わせると、ガンをコントロールできる例は100%に達します。

腫瘍が増大しないことが、生存期間を延長させることに繋がっております。副作用は軽いものも含めると全員で見られましたが、減量や休薬で十分に対応できました。抗ガン剤治療はこの5年間で大きく進歩しています。新薬の開発も進み、選択肢も増えました。

2014年に27各国が参加した臨床試験の結果が発表され、パクリタキセルとマブシルマブの新薬を併用療法治療が二次治療の選択肢として延命効果があると実証されました。まだ使っていない薬の3次治療も検討されております。胃癌治療は、今後ますます進歩していくことは明らかであります。

シンポジウム1について

進行胃癌に対する抗がん剤治療はこの5年ほどで劇的に進歩しています。第86回 日本胃癌学会総会は2014年3月20日から22日にかけて行われ、盛会にて無事に終了することができました。

この総会の2日目に行われたシンポジウム1では、筑波大学医学医療系消化器内科の兵頭 一之介先生と、弘前大学大学院医学研究科腫瘍内科学講座の佐藤温先生に座長を務めて頂き、進行胃癌の治療についてシンポジウムを行いました。

しかし、この総会以降も分子標的薬の新薬が登場するなどの発展があり、二次治療の第一選択薬も変更となっております。従来、二次治療の第一選択薬はパクリタキセル、イリノテカン、ドセタキセルのいずれかを単独使用していました。それが、2015年11月にパクリタキセルと新薬のラムシルマブの併用に変更になっております。

ラムシルマブは、がん細胞だけを標的にして周りの正常な細胞を傷つけない分子標的薬です。また、がん細胞が栄養を得るために作る血管の新生を阻止する働きもあり、血管新生阻害薬とも呼ばれています。

進行した胃癌の患者さんのパクリタキセル単独療法では7.4ヶ月だった生存期間が、ラムシルマブと併用することで9.6ヶ月に延びました。二次治療は、がんの進行が止まっている場合はできる限り継続することが望ましいです。効果が低下してきた場合も、そこで諦める必要はありません。

二次治療以降も、まだ使っていない薬を使用した三次治療を検討することが可能です。また、抗がん剤治療は進行した胃癌の治療の柱として使うだけではなく、補助的にも使われています。癌を小さくして手術をしやすくしたり、手術後の再発予防にも使われております。

一昔前は胃癌で転移があるとなれば、「残された人生を有意義に過ごしてください」と言った感じでした。しかし現在は、進行した胃癌で転移があっても、分子標的薬などの登場で転移した癌が縮小してなくなったり、手術が可能なくらいになるケースも増えてきました。今や進行胃癌イコール余命わずかという方程式は成立しません。

特別企画2について

第86回 日本胃癌学会総会の特別企画2は、学校法人獨協学園(理事長)を務める寺野 彰氏とがん研究会有明病院 消化器センター長を務める山口 俊晴氏が座長を担当されます。テーマは「TPPで何が変わる?」という一見胃癌治療とはかけ離れた演題です。しかしながら、今回の胃癌学会総会のテーマが「胃癌の征圧・叡智と実践」というアグレッシブな観点を内包していることを鑑みると、非常にふさわしいといえるのではないでしょうか。

現在の胃癌治療というのは、食の安全性と不即不離の関係性にあります。入院治療のみならず、こと外来治療に関して患者側の食養生というものは欠かすことができません。近年のみならず、従来の研究からも食の欧米化と胃癌治療は密接な関わりがあることは様々な研究から明らかになっています。

しかし、TPPによって、さらなる食の欧米化が進むとなると食の欧米化がさらに進むことになります。アメリカ合衆国では、当時上院栄養問題特別委員の委員長であったマグガバンによって、食と健康の関係が報告書にまとめられて発表されました。がんや心臓疾患などが食と因果関係があることを発表し、国民に注意喚起をうながす目的があったと考えられます。

マグガバン・レポートはアメリカの医療界に多大な影響を与え、医学界に食と健康との研究をうながす契機にもなったのではないでしょうか。しかし、現代社会ではコンビニエンスストアの発展や加工食品の普及により、決して健康的とはいえない食習慣が蔓延しているのも事実です。胃癌の臨床に関わってきた座長の元、TPPという大きな岐路に立たされた日本社会の食の安全性をディスカッションする特別企画は、すべての臨床家および研究職、医療関係者に新たな見地を与えるに違いありません。

患者の食指導に悩む臨床家にとっては、明日からの仕事に活かせる視点を得られるではないでしょうか。本特別企画によって、胃癌分野における全人的な医療が前進する兆しになることを期待してやみません。

特別企画1について

第86回 日本胃癌学会総会、特別企画1は、「胃がん学会のあゆみ 次世代の胃癌治療を担う人材へのメッセージ」という演題で行われました。
座長に日本胃癌学会理事長で兵庫医科大学病院上部消化管外科主任教授であられます笹子 三津留先生と、がん研有明病院消化器外科部長であられる佐野 武先生をお迎えしてお話し頂きました。

笹子 三津留先生は数千例の手術件数を持っておられます。しかし手術の数だけではなく手術の質も重要であると常に述べておられます。
胃癌は治ったがQOLは低下したのでは、何のために手術をしたのか判りません。

近年は腹腔鏡手術(ラパロ)で、傷を小さくし退院までの日数を短縮するのがベターだというムードが流れていますが、食道がんに比べて胃癌ではラパロで行うメリットは限られており、合併症のリスクは高くなります。

適応や短所・長所を見極めることが重要であります。いくら手術が上手でもラパロで手術痕が小さくても、適応を間違えれば0点です。

笹子先生は、「もしも自分がガンになった時に、執刀して欲しい外科医であるかどうか」を、常に自問自答されて手術に当たっておられます。

そして、「患者さんには嘘をつかず誠実に」をモットーにされておられます。

佐野武先生は海外から多くの外科医が手術を見に来る胃癌治療の専門家であられます。

その佐野先生も笹子先生と同様に「患者さんに嘘はつかない」を心がけておられます。

病状説明はわかりやすく受け入れやすい言葉を使うこと、病気のステージや悪性度、臓器の特徴だけではなく、患者さんの性別や年齢、家族構成、職業、社会的地位、人生観、経済力なども考慮して治療プランを立てることが大切です。

「手術の先には患者さんの生活があり、人生があり、家族や友人や仲間がいる」このことを忘れてはなりません。

外科医をはじめ医療人が対象としているのは、病気ではなく人であると言うことを、またその1人の人の背後にあるものや周囲にあるものも常に頭に置いて治療・診療にあたって頂きたいというのが、次世代の治療を担う若い人材へのメッセージであります。

教育講演4について

第86回 日本胃癌学会総会(The 86th Annual Meeting of Japanese Gastric Cancer Association)は、胃癌の征圧、叡智と実践をテーマとして、北里研究所創立100周年を迎える2014年3月20日から22日にかけ、パシフィコ横浜会議センターに於いて開催されました。同総会では、海外からの参加者を含め、多くの胃癌研究を行う研究者や、胃癌治療に携わる医師の参加が得られました。

その総会の二日目である3月21の11時15分から12時に渡って、第七会場で行われた教育講演4の講演テーマは、iPS細胞研究の現状と展望、腫瘍学への応用の可能性でした。座長は大阪市立大学大学院、腫瘍外科科学教室の平川 弘聖、演者は神戸大学大学院医学研究科内科系講座、iPS細胞応用医学分野指導教員の青井 貴之教授が務めました。

演者である青井教授の、神戸大学大学院医学研究科内科系講座、iPS細胞応用医学分野は、2013年4月の発足以来、幹細胞を中心とした基礎的な生物学と、さまざまな臨床医学を結びつけることを目標としています。

同研究所では、iPS細胞の、実験室において無限に増やすことができることと、体を構成する多種多様な細胞を作ることができるという利点を利用して、人工がん幹細胞を用いたがん幹細胞の特性解析と治療への応用、ヒトiPS細胞を用いた発がんモデルの構築とその応用、がん細胞との関係が推測されているヒト内在性レトロウイルス(human endogenous retrovirus(HERV))のがんとの関連や生命維持における役割の模索、疾患特異的iPS細胞の作製と病態再現などの研究が行われています。

今回開催された日本胃癌学会総会の教育講演4に於いて、青井教授は、iPS細胞応用医学分野で行われている、iPS細胞研究を用いたがん細胞研究の現在の状況、今後の課題と展望を、胃癌に焦点を当てて解説しました。

教育講演3について

第86回 日本胃癌学会総会、教育講演3「臨床疫学、薬剤疫学の発展による医療技術評価の現状と実践」は、座長を国立がんセンター中央病院 消化管内科医長・島田 安博先生、演者に京都大学医学研究科 薬剤疫学教授・川上 浩司に迎え行われました。

座長の島田 安博先生は、日本の抗癌剤投薬治療における胃癌化学療法や再発防止のための、医師・看護師・薬剤師が一体となった、患者の負担を軽減する緩和ケアと治療効果の最大効果を引き出すためのチーム医療の標準化へ導いた貢献者です。

川上 浩司先生は、1999~2004年まで米国政府機関 FDA(Food and Drug Administration:食品医薬品庁)にて、臨床試験検査官・研修官として、行政機関での癌医薬品に関する細胞・遺伝子治療の臨床、胃癌ワクチンなどの開発に関する審査・指導業務に従事。帰国後は、日本臨床試験学会などの理事も務められています。

本講演では、研究テーマである「薬剤と臨床疫学、ライフコースデータ、ヘルステクノロジーアセスメント、レギュラトリーサイエンス、抗癌標的ペプチド療法の開発と評価」について、米国行政機関での医薬品研究・臨床経験から、臨床や開発を行う製薬会社と、安全と経済的評価をくだす政府行政、現場で使用する医師や看護師、薬剤師などの医療従事者の直面する問題と課題を双方間で共有し、双方向からの研究・論文を発表し合うことが医療の技術・評価の向上にとって重要なことだと話します。

行政や法的規制、医学と社会の関係を大きな枠組みで捉え、友好的に機能させながら胃癌診療の向上発展のためには総合的に考える必要性があるこれらの研究は、諸外国では精力的に行われているものの、日本では疾患別のの臨床における基礎的見知や医療薬学に対する研究が人材不足などの要因によって、まだまだ足りていない状況と若手研究者育成サポートの必要性など具体的な事例を挙げた胃癌臨床疫学の現状についてお話されました。

教育講演2について

第86回 日本胃癌学会総会 教育講演2は、「胃癌に対するanatomic surgery(解剖学的手術)としての「系統的胃間膜切除」」と題して、座長を公立昭和病院 外科 院長・上西 紀夫先生のもと、虎の門病院 消化器外科医長・篠原 尚先生を演者に行われました。

座長の上西 紀夫先生は、世界をリードする日本の消化器内視鏡界を牽引するドクターでありながら、2013年まで日本消化器内視鏡学会理事長として、日本消化器内視鏡学会のインターナショナルセッションを企画し、米国や欧州、アジア太平洋学会からドクターや研修者を集め、国際的な見解や技術の向上に貢献。消化器内視鏡医が減少傾向にあることへの問題改善への取り組みや、若手内視鏡医師が高度な診断や治療の技術を学べる環境作りからグルーバルな活躍の舞台を整えられた立役者でもあります。

篠原 尚先生は、京都大学関連病院・虎の門病院で内視鏡を使った腹腔鏡手術をメインとした胃癌手術専門医として臨床と研究に従事。得意分野は、多くの外科医がその理解に頭を悩ませる、腸間膜のねじれ・癒合リンパ節・膵上縁リンパ節の解剖学的手術を得意とされています。

本講演では、胃切除における膜の重要性を指摘しながら、大腸癌手術で確立されているTME(直腸間膜全切除)やCME(全結腸間膜切除)の概念を胃癌の手術である2Dと共通の概念で捉えるべきであると提唱します。

胃癌に対する根治的処置としては本来リンパ節の切除し、胃間膜を全切除すべきであるが、胃の回旋によって温存すべき腹膜同士が変性し融合してしまい、膵を温存するためには制約が生じるが、変性した両者の間にはIDLを正確にトレースすることで,組織を選択的に摘除することができると言うことを事細かく解説し、「消化器に対する外科手術の目指すものは担癌臓器とそのリンパ領域を含む腸間膜をできるだけ無傷な状態で切除することである」と力説。系統的胃間膜切除のためのロジックの全容を講説しました。